第15章 diminish

｢お待たせ｣

ドアが開くと同時に聞こえた聞き覚えのある声に、俺は重くなりかけていた瞼を持ち上げた。

良かった…、俺が知っている松本だ。

松本は軽い身のこなしで車に乗り込むと、昼間でもないのにやはりサングラスをかけた。

そして一瞬俺の方を見ると、

｢寝てないの？｣

そう言って自分の下瞼を指で差した。

｢まあ…な…｣

昼間に十分睡眠は取ったつもりだったが、精神的な疲労はどうしたって顔に出てしまう。

｢ふーん…。で、どこで話する？｣

｢ああ…、そうだな…｣

出来れば“その件”は忘れて欲しかったけど、そこまで都合よく行くわけないか…

｢俺ん家でも良いけど、雅紀さんいると落ち着いて話出来ないし…｣

松本は相葉さんのマンションで緒に暮らしているから、つまり松本の家に行く＝(イコール)もれなく相葉さんもワンセットになるってわけで…

相葉さんは智のことを本当の弟のように可愛がっていたし、今だって智を自分の手元に置いて面倒を見ている。

もし俺が智を捨てた…、なんてことが相葉さんに知れたら…

いや、いずれは相葉さんの耳にも当然入るんだろうけど、そうなった時のことを考えると、殴られる覚悟も、酷い言葉で諌められることへの覚悟すら、今はまだ出来ていない。

だから、俺も実際それは裂けたいところではある。

かと言って、俺に心当たりもないんだけど…

｢あ、櫻井ん家は？｣

｢え、お、俺ん家？｣

｢だって櫻井一人暮らしでしょ？｣

｢ま、まあ…、そうだけども…｣

｢よし、決まり♪｣

｢嘘だろ…、マジか…｣

ったく、相変わらず強引な奴だよ…

とは言え、一度走り出した車は、俺には止められない。

俺はハンドルを握る松本に、自宅までのナビをしつつ、何から話すべきかを、頭の中で順序建てていた。