第1章 【死ネタ】褒め言葉【又兵衛】
それは突然のことで、咄嗟に自分の身体が動いたような。
こんな世の中を怨みたくもなるし、一周回って感謝さえしたくなるような状況?
目の前には奇襲を仕掛けてきた敵武士がいて、自分の片腹には相手が突き刺してきた刀が刺さっている。
血が滲んでは、それを伝って地面にシミを作る。
今この時代を作り上げてきた先代達のように、この場所に歴史を重ねている。そんなことさえ考えるような余裕があるのか、はたまた錯乱しているのか。
目の前には敵。背後には主。
多分きっと主は気付いていただろうな、なのに盾になったりなんかして、馬鹿なことしやがってと言われそうだ。
『あぁ?何やってるんですかぁ、この木偶はぁ…』
あぁやっぱり。
また呆れられてしまったなあ。
でもまぁいい、主にとって自分はあまり役に立つ存在だと思われていないどころか、寧ろ認知さえされていないのかもしれない。
そう考えると、ただただ自殺行為に走っただけなのだが。
主は、この方は。
死んだ者達や仲間だった者達に、あまり感情を動かされないような、堂々としていて、冷酷な、それはそれは非常に冷静な方だ。
だから、あまり後のことを考えずに死に急いだり、肉壁になってみたり、盾になって自分の身体に刃を受けてみたり出来る。
仲間の死を引きずらないからこそ、遠慮なく簡単に死んでしまうかもしれないようなことを出来る。
この人に付いて行くのは、死にに行くようなものだと誰かが言った、ような。気がするだけだが。
相手の敵は下っ端だろうが、このままこいつに殺されるのはちょっとどころか、かなり嫌だなあ。
「このまま殺っちゃってください」
相手の胸ぐらを掴んで、後ろの主に語りかけてみる。
こんな認知されてるかどうかわからない木偶の言うことを、聞いてくれるだろうか?
殺されるなら、このひとに。
「味方ごと、切れるの…か……?」
相手が言い切らないうちに、奇刃が敵の鎧を貫通した。
と同時に自分の腹部にさらなる痛みが襲ってきて。
意識が一気に遠ざかるのが分かった。
このひとの刃には、迷いがない。
そんなところが好きなんです。
『木偶のくせに、最後の最後で役に立ちましたねぇ…凛。』
ああ、このひとは。
なんて罪作りなひとなんだ。
こんなにも人を幸せに出来る力があるのに、
周りはなんて愚かなんだろう。
