第27章 翔ぶ
ハンジの言葉にハッとして隣のマヤをよく注意して見れば、確かに肩が細かく震えている。
「……悪かったな、マヤ」
「いえ… 大丈夫です」
場の空気を察したのかエルヴィンが、早々に部屋を出ていくように命じた。
「マヤ、早速だがレイモンド卿の案内をよろしく頼む」
「了解です」
マヤは誰の顔も見ることなく立ち上がり、
「……行きましょうか」
とレイに声をかけた。
「あぁ、頼むよ」
少しぎくしゃくした雰囲気のまま、マヤとレイは退室した。
「あぁぁ、行っちゃったねぇ…」
ハンジが閉まった扉を見つめながらつぶやいたあと、エルヴィンの右後方で腕組みをして立っているリヴァイに訊く。
「……本当にこれでいいのかい?」
「……あ?」
「だって昼休みにここに集まったときもさ、リヴァイは黙っていたけど。レイモンド卿… あれはマジだと思うよ? 明日から毎日ここにやってきてマヤの訓練を見て、マヤをデートに連れ出すんだよ? そしてその先にあるものは… わかっているだろう?」
「………」
何も答えないリヴァイの表情は何も無いように見えて、その場にいる全員に痛いほど伝わった。苦しんで傷ついていることが。
「相手は王都の貴族だ。金も権力もなんでも持っているんだよ? おまけにあの色男ぶり。うかうかしているとマヤを持っていかれちゃうけどいいのかい?」
重ねて問うハンジの強い視線を一度はしっかりと受け止めたリヴァイだったが、すっと斜め下に目を伏せた。
「……マヤが決めることだろうが」
……持っていかれるも何も、あいつは俺のものじゃねぇしな…。
それに…。
リヴァイの胸に渦巻く苦しくて切ない想い。
“兵長は上司ですから。それ以上でも以下でもありません”
いつも心に聞こえてくるのは、あのときのマヤの声。
……マヤにとって俺はただの上司。
もしマヤとレイモンド卿との未来があるなら、それでマヤが幸せを掴むなら…、上司として受け入れるしかねぇじゃないか…。