第27章 翔ぶ
「使いを遣ると書いてあるのに、使いではなく本人のご登場という訳か」
冷ややかな視線をレイモンド卿に投げかけながら、リヴァイは封書をエルヴィンの執務机に返した。
「そういうことだ。確かに “前ぶれ” はあったにしろ…」
ほんの少しだけ非難めいた口調でエルヴィンは締めくくった。
「使いではなくレイモンド卿本人がお越しになるとは、さすがの私も昨日の段階では予見できなかったものでね」
「そういうことなら仕方ねぇな」
この会話の始まりでは確かにレイモンド卿の肩を持っていたエルヴィンだったが、いつしかリヴァイ寄りになっている。あからさまには言わずとも、暗に “前ぶれもなく押しかけた” レイモンド卿をとがめていた。
この昼休憩の団長室でのやり取りを思い起こしながら今、リヴァイは再び同じ団長室での茶番に辟易としている。
……クソみたいな茶番だ。
どうせこのあと、レイモンド卿は恥ずかしげもなくマヤに…。
今から目の前で繰り広げられるであろう光景を考えると、頭が痛い。
エルヴィンに “執務の補佐の時間はミケとリヴァイに確認を取ってあるから、なんの問題もない” と言いきられてしまい、マヤは成す術もなくうなだれた。
「……わかりました。それで… その、具体的に何をすればいいのでしょうか?」
「さぁ…」
エルヴィンはぐっと机の上で指を組んだ。
「今日は今から、兵舎や敷地内の案内でもすればいいだろう。明日からは… レイモンド卿の望むがままに」
「……了解です」
「マヤ…」
それまで黙っていたレイが、隣に座るマヤの方を向く。
「あのときお前はオレのことをよく知らねぇと言った。だから無理だと。なら今から知ればいいとオレは言った。憶えてるだろ? 約束どおりに知ってもらう。そのためには一緒に過ごす時間が必要だ」
「レイさん…?」
マヤは信じられない気持ちで今のレイの言葉を聞いた。
……あのときのテラスでの話を、ここでするの?
「だからその第二部の時間? とやらをオレにくれ。今日は団長のすすめるとおりに案内してくれ。明日からは街に出よう。一緒に買い物をしたり、芝居を観たり、食事をしよう」