第27章 翔ぶ
「さて…」
役者が揃ったとばかりにエルヴィンは、団長室に集結した面々の顔を、少々愉快そうな笑みを浮かべて見渡してから。
「レイモンド卿、訓練を見学されたご感想は?」
「想像以上に迫力があったよ」
ちらりと横に座っているマヤに視線を送る。
「小さなマヤが体格のいい男を投げ飛ばしたときには、思わず声が出たな」
「格闘術は相手の力を巧みに利用して小さき者でも巨体を投げ飛ばせる… それが見どころの一つですから。存分に堪能していただけたようで何よりです。……マヤ」
「はい…!」
「ミケから説明を受けたとは思うが、レイモンド卿が当面のあいだ訓練を見学することになった。見学するのは基本的には第一分隊第一班、午後の第一部の時間帯の訓練だ。そして第二部の時間だが、マヤと過ごしたいとご所望だ」
「……過ごしたい… ですか?」
過ごしたいとは?
意味がわからず、つい語尾が疑問形になってしまう。
「そう、過ごしたいそうだ。レイモンド卿がわざわざ王都より出向いてきた理由は二つ。一つは訓練を見学して調査兵の実態を勉強したい。そして二つ目はマヤとの時間も作りたいと。……そうですね?」
エルヴィンの言葉を受けて、レイはうなずく。
「あぁ、そのとおりだ」
「でも、その時間は執務の補佐をしています…!」
「それなんだがミケとリヴァイに確認を取ったところ、数日間ならミケはかまわないとのことだし、リヴァイにいたっては今はもう一緒に執務をしていないと…。ならば見学自体は訓練に差し支えはないし、レイモンド卿の要望は受け入れるしかないだろう。こうやって “わざわざ” こんな田舎くんだりまで急に来られている以上は」
エルヴィンは二回目の “わざわざ” を少しだけはっきりと発音した。
それを聞いていたリヴァイは腕を組んで立ちながら、内心で舌打ちをする。
……チッ、エルヴィンめ…。もっとはっきりと急に来られては迷惑だと言いやがれ。
リヴァイは今日の昼休憩に食堂にいたところを、突如ミケに呼ばれたことを思い出す。
ハンジとラドクリフとともに、団長室に駆けつければ。
レイモンド卿が全身真っ白のいでたちで、まるでそこにいるのが当たり前かのようにソファに座っていた。