第3章 意地悪なマシュマロ
揶揄われているのはわかっているが、いつか絶対美味しいコーヒー淹れてギャフンと言わせてやるぅと、杏奈はレジを閉める。
「会計頼む。」
戻ろうとしたところで、直ぐにレジに人がきて顔を上げると、カウンター席にいた男が立っていた。どうやら紅茶を全て飲み干し、店を出るようだ。
はーいと緩く返して、杏奈は会計金額を伝える。
しかしそれはサンドウィッチの値段だけで、男は訝しそうに杏奈を見下ろした。
「足りなすぎんだろ。ちゃんと計算してんのか?」
眉間に皺を寄せる男の表情には、どこか心配そうな様子が窺える。
しかし何故だろう。頭大丈夫か?と頭の心配をされている気がするのは。
馬鹿にされているのを感じつつ、杏奈は口を開く。
「あってますよー。紅茶は当店からのサービスです。それにあのコーヒーにお金を払っていただくのは、さすがに申し訳ないので。」
へにゃりと眉を下げて苦笑する。
自分の淹れたコーヒーが美味しくないことは、普段から練習したものを飲んでいる杏奈自身が一番良くわかっていた。あれでお金を取るのは詐欺だ。
だからサンドウィッチのお代だけで結構です、あれにお金払うくらいなら募金してくださいとへらりと微笑む杏奈に、男は自分でそこまで言うかと、呆れを通り越して同情してしまう。
しかし彼女が受け取らないと言うなら、受け取らないのだろう。
この店に招き入れたときの態度から、口調やのんびりとした雰囲気に反して、意外にも頑固で強引であることは、男も理解していた。
はぁ……と諦めたように溜息を吐くと、男は杏奈に告げられた金額を支払う。
「丁度お預かりいたします。……レシートのお返しです。」
「ポイントカード。」
有難うございましたと頭を下げようとした杏奈は男の言葉に、へ?と間抜けな声を上げた。
意味を理解できていない様子の彼女に、男はもう一度言う。
「ポイントカード、あんだろ。作れ。」
先程の常連客とのやり取りで、モリエールがポイントカードを取り入れていることがわかる。事実、モリエールには五百円毎にひとつスタンプを押し、十五個貯めたらアフタヌーンティーセットを無料で提供していた。