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アフタヌーンティーはモリエールにて

第3章 意地悪なマシュマロ


誰しも名前を聞いたことがあるくらい、どれもメジャーな茶葉たちだ。大抵の人間が紅茶と聞いて頭に思い浮かぶのが、この辺りだろう。実際、男も紅茶といわれて真っ先に思い浮かんだ。

しかし杏奈が提供した紅茶は、そのどれにも当てはまらない。
柑橘系やフルーティーな香りが強い上記の紅茶たちと違い、杏奈の淹れた紅茶は、甘くスモーキーな香りが鼻腔に広がる。それこそ男が吸うタバコによく似た、男には親しみのある香りが。

男の言葉に、杏奈はぱぁっと表情を明るくした。
まるで最初に紅茶を勧めてきたときのような活き活きとした彼女の雰囲気に、男は早くも身体を仰け反らせる。押してはいけないボタンを押してしまったと、後悔してももう遅い。


「今回ご提供させていただきましたのは、私オリジナルの"ラプサンスーチョン"と"カラメルティー"のブレンドティーです!」


今回、杏奈がブレンドした茶葉は二つ。

ーーラプサンスーチョン。
それは烏龍茶の一種である"武夷岩茶(ぶいがんちゃ)"から派生して出来た中国原産の紅茶で、茶葉を松葉で燻して香りをつけている。
松葉の香りが移ったオリエンタルでスモーキーな強い燻香が特徴だ。
一説では、アールグレイはラプサンスーチョンをイギリスで再現にするために生まれたとも言われている、紅茶の国イギリスでも大変人気のある茶葉の一つである。しかしその多くはイギリスに出荷され、日本にはごく少ない量しか直接入ってこない。

ーーカラメルティー。
これはフランス生まれのフレーバーティーで、名前の通り甘いカラメルの香りが特徴だ。
ミルクティーにすると更にクリーミーな香りが増すので、ミルクティーとしても好まれている。

どちらも飲食店やカフェではあまり提供されていない茶葉だ。
男が親しみがなく戸惑うのも無理はない。
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