第8章 心の在処
安室に送ってもらった夜、柊羽はひとり考えていた。
なんで、彼はこんなに私に良くしてくれるのか。
からかわれている?
同情?
ほんの、暇つぶし?
というか、あの車…探偵兼アルバイトという肩書きで手が届くようなものなのだろうか?
親がお金持ち、とか?
それとも、彼も何か大きな秘密を………
それに、あんなに引く手あまただろうに彼女がいないことも引っかかる。
私なんかと恋人のふりをしたら余計彼女ができないではないか。
必要ないのか、本当に興味が無いのか、作れない事情があるのか___
それから梓ちゃんに言われたことも気になる。
私が、乙女って…
意識したことはなかった。
きっかけは私の夢だったけど、実際に話してみると本人に魅力があることは明らかで
一いえば十理解してくれる、無駄のないやり取りは心地よい。
新一にもそういう面はあるが、決定的に違うのは異性への配慮だ。
新一はびっくりするほど女性の気持ちに鈍い。とんちんかんだ。
そこも居心地が良いと感じてしまう要素なのだろうか。
彼の優しさは麻薬のように依存性がある気がしている。
だからどっぷり浸かるのは危険だ。
ちょっとでも油断すれば、本当に恋人なのではと思ってしまいそうになる。
そんな気持ちを告げればまた、彼は「そう思えばいい」と甘やかすだろう。
まるで底なし沼。
でも、まだ、浸かる訳には。
惹かれ始めていることは否定できない。
でも、ありのままの彼を知るまでは堪えなければ。
ねぇ陣平さん、私は前に進めてる?
彼を信じてもいいのかな?
彼も、「心のリハビリ」だって、あなたと同じようなことを言うから、似てるのかなぁって、思っちゃったよ………
考え事は尽きることは無く、その夜は眠れなかった。