第2章 喫茶ポアロにて
予定外の朝のシャワーを浴びつつも、お陰でスッキリしたような表情で坂巻 柊羽はいつもの通勤路を歩いていた。
通勤路、といってもフリーでwebデザインの仕事をしている為特に事務所がある訳では無いのだが
彼女は決まってお気に入りの喫茶店で作業をするのだ。
ほぼ毎日通う常連なのだが、ここ1週間は体調を崩し主治医から自宅安静命令が出ていたため、久しぶりに顔を出す。
(梓ちゃん、元気かなー?)
いつも元気で愛らしい看板娘を思い出すと、自然と頬が緩んだ。
(あー。今日のデザートはアーモンドタルトだな!)
それより先にお昼があるか、と心の中で自分にツッコミつつ
大好きなお店を思うと気付けば足早になっていた。
時を同じくして、柊羽が思いを馳せていたポアロでもまた、看板娘が柊羽のことを考えていた。
「最近来ないなぁ~、柊羽さん。どうしたんだろう…」
「柊羽さん、ですか?」
「はい!あ、そういえば柊羽さんが来なくなったのと同時に安室さんが来たから…安室さんはまだ知らないんですね!」
喫茶店ポアロの看板娘、榎本梓はふふ~んとイタズラっ子のような笑みを浮かべた。
「柊羽さんはうちの常連さんで、すっ………っごい!キレイなんですよ!!なのに全然男の影がなくてそれはそれで心配ですけど。あ、流石の安室さんのフェロモンも柊羽さんには効かないかもしれませんね!」
まるで自分の事のように自慢げに柊羽の事を話す梓。
「それは助かります」
梓のさり気なーい攻撃もニコッと交わすこの男、安室透は
1週間前からアルバイトとして喫茶ポアロにやって来た。
その容姿端麗さ、物腰の柔らかさ、人懐っこい性格から
女子高生を中心にイケメン店員としてあっという間に噂が広がり
僅か1週間という短い間でポアロの売上を倍まで伸ばしたのだ。
「もう間に合ってるってことですか?モテる男は辛いですね!
柊羽さん見たら、その言葉ぜーったいに後悔しますからね!」
と、梓は何故かまたも自分の事のようにぷんぷんと怒っていた。