第6章 明らかになる過去
柊羽の家までは歩いて10分程だった。
「なるべく早く済ませますけど、2、3分ってわけにはいかないので…よかったら上がって待っててください。お茶くらい出しますので。」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘え…」
靴を脱ぐために手を置いたシューズクローゼットの上が自然と目に入り、安室は固まった。
柊羽は先に上がってキッチンでお茶の用意をしていたが、安室の視線の先のものに気づくと、声をかけた。
「あぁそれ…昔の写真で。ははっ、もう終わったのにそんな所に置いちゃって、重い女みたいですよねー」
なるべく冗談に聞こえるようにへらっと笑いながら言った。
「元カレ、ってやつですか?」
「…ってやつです。」
「無理に忘れなくてもいいと思いますけど。」
「忘れたくは…ないんです。だけど前に進むには、縋ってたらダメなんだろうなって。」
「もう、会えないんですか?」
安室は分かりきっていた答えを、あえて聞いた。
「そうですね。…っ勝手に、手の届かない遠いところにいっちゃいました。あ、お茶飲んでてください!準備してきますね!」
柊羽は零れそうになった涙をぐっと堪え、誤魔化すように自室へと向かった。
その場に残った安室は、お茶を飲みながら遠くの写真をまた見つめていた。
(そうか。だからあの時…)
『…じ、ん』
安室は昨日の柊羽の寝言を思い出していた。
(そんなこと夢にも思うはずないだろ…お前の名前を呼んでいたなんて…
なぁ、松田?)
その写真には、くせっ毛で人懐っこい笑顔を浮かべながら、困った顔の柊羽の肩を抱く、安室___いや、降谷零の悪友が写っていた。