第5章 二人の探偵
全く落ち着く様子のない柊羽を見て、安室が動く。
「くそっ、でもこうするしか…柊羽さん、後で殴っていいですから、ちょっと我慢してください」
そう言って片膝をつき、柊羽をもたれかからせ、抱き締めるように体に回した腕に力を込めた。
柊羽は荒い呼吸を繰り返し、目も虚ろだ。
もう片方の手で頭を固定し、覆いかぶさるように口付けた。
「!!!…ゃっ!はぁっ、はぁっ」
「大丈夫、僕に身を委ねてください」
突然のことに驚き、ありったけの力で安室の胸を押し返したが力でかなうはずもなく、また安室の「大丈夫」には不思議な力がある気がして、柊羽はついに抵抗をやめた。
「っん…ふ、」
安室は柊羽の力が抜けるのを感じると、自分の腕の力も弱めた。呼吸も落ち着いてきたのを確認し口を離すと、柊羽は緊張の糸が切れたかのように意識を失った。
安室の額には珍しく汗が浮かんでいる。
「ふぅ…とりあえずよかった。後で怒られるだろうな」
言葉とは裏腹に、優しい顔をしていた。
そしてそこにいる訳にもいかず、柊羽の家も知らなかった安室は、偶然そこから近くの自宅に柊羽を運ぶことにした。
(起きたらまた驚かせないように気をつけないとな…)
男である自分の家に勝手に運ぶのは罪悪感があったが、さすがに犯人がまだいるかもしれない先程の道を柊羽を抱えたまま歩くのは気が引けた。
この時間も柊羽のことを心配しているだろう小さな少年には知らせておかないとと思い、毛利探偵事務所に連絡を入れ、自宅へ向かった。