第4章 歩み寄る影
新一と話したおかげかは分からないが、その日はとてもよく眠れてスッキリ目が覚めた柊羽。
そして早速、昨晩の新一の要求に合う服を選ぶためクローゼットと睨めっこを始めた。
(今更だけどボーイッシュってアバウト過ぎない?帽子も普段被らないからなぁ…)
「あ…」
帽子あったっけ…と記憶を辿っていくと、一つだけあることを思い出した。
「たしか、この箱に…」
それはクローゼットの上段に衣装ケースにしまってあった。
少し背伸びをして取り出すと、中には柊羽の記憶の通りトレーニング用のジャージ一式と同じメーカーで揃えられたキャップ、スニーカーが入っていた。
「懐かしい、な」
思い出に蓋をするように、仕舞っていたそれ。
まるでパンドラの箱を開けたかのように思い出が甦ってきた。
『これ、やるよ』
『え?今日って何かの記念日だっけ?』
『いいから黙って受け取れって』
『あ、ありがと………ジャージ?』
『そろそろ体力つけるのに一緒にトレーニングするぞ』
『ま、マジですか…できるかなー私に』
『…ってのはこじつけで、その、普段あんまり一緒にいてやれねーから、トレーニング一緒にやれば二人の時間も取れるだろ』
『……あははっ!』
「不器用、だったなぁ」
少し前までは、思い出してはネガティブになっていた自分が嘘のように、穏やかな気持ちになっていることに柊羽は驚いていた。
そして思い切って、今日の服装はこれにしようと決めたのである。
「どうせ今日は仕事にならないだろうしいいよね。ついでにポアロまでランニングでもしようかな」
なんだか走りたい気分だった。
ウェアに袖を通し、普段下ろしている髪も一つにまとめてアップにして、キャップを被ったら背筋がピンと伸びた気がした。
最後に玄関で靴を履く。
そして、さっきの衣装ケースのようにずっと伏せたままにしていた写真立てを徐に直した。
思い出に甘えてはいけないと思っていた。
でも、思い出に背中を押してもらうのはいいんじゃないか、そう思えた朝だった。
「行ってきます」
新一への連絡も忘れずに入れて、ポアロまで走った。