第16章 純黒の悪夢
柊羽は必死に爆発現場へと足を進めていた。
(だめっ…絶対にだめだよ…!)
安室でなければ誰が犠牲になっていいというわけではない。
でも、安室ではあって欲しくない。
操縦していたのが誰であれ、悲しむ人が必ずいる。
それはかつて、松田の一件で痛いほど思い知った。
けれど今の柊羽にそこまで考える余裕はないと言っていいだろう。
(だってまだ何も、ちゃんと確かめてない…!)
あの時、助けてくれたお礼とか。
陣平さんが、同期にあったらよろしくって言ってたってことも。
_______本当のあなたが、「ゼロ」だってこと。
あと少しで到達する。
ようやく、と思ったところで頭上からガラッと不穏な音がした。
「え、何…っ!?」
爆発によって脆くなった支柱が崩れかけており、あと数歩ズレていたら直撃したであろう場所にその一部が落下してきた。
進むべきか退くべきか必死に考えを巡らすが怯んでしまった足が思うように動かない。
ミシミシと音を立てる支柱は待ってくれるはずもなく、限界を迎えて頭上にコンクリートの欠片が降り注いでくる。
落ちてくる欠片がスローモーションのようだ。
あと少しすれば完全に崩壊するだろう。
その瞬間、逃げるよりも脳裏に浮かんだのは思い出たちで。
ああ、これが走馬灯ってやつか…置かれた状況にそぐわずそんなことを考えていた。
(新ちゃん、心配ばっかりかけてごめん)
(陣平さん…私が行っても、早すぎるとか、怒らないでよね)
(透さん…透さん、)
「とおる、さん…」
伝えたいことがありすぎて、言葉にするのは難しい。
けれど願うのはただ1つ。
「もういちど、会いたかった」
諦めに近いトーンでそう呟くと、突然後ろから腕を引っ張られた。
驚く暇も誰なのかを確かめる間もなくギュッと抱きしめられ、勢いよく倒れ込んだ。
その勢いのまま地面を転がったが、その人の護身術が上手いのかさほど痛みは感じない。
反射的に瞑っていた目をゆっくりと開けると、先程までいた場所が瓦礫の山になっているのが確認できた。
それよりも、
「勝手にいなくなるのを許した覚えはないが?」
私はこの温もりを、知っている。
「透さん、」
ああ、良かった。