第14章 緋色の真実
「身元のはっきりしない人を信用しろという方が難しいですよ」
「それは彼も同じでは?」
思わず血が頭にカッと昇ったのは、それが図星である証拠だった。
認めたくはなかったけれど、確かに柊羽は本当の安室透を知らない。
でも彼はいずれ話そうとしてくれている、今はまだそのタイミングではないだけだと自分に言い聞かせてきたがその時がいつ来るのか…本当に来るのかは分からないのが現実で。
それを改めて突きつけられたようで悔しくて、思わず唇を噛んだ。
「すみません、私も貴女を虐めたいわけではないんです。ただ、心配で」
「心配…?」
どこをどう受け取ったらそうなるんだと柊羽は思った。
というか、虐めてる自覚はあったのかとも。
「私も昔恋人を奪われました。組織の手によって。」
「昴さん、それは…」
どくりと、まるで脳が心臓になったんじゃないかと思うほど鼓動が響いた。
言わない方がいいんじゃないかとでも言いたげな新一から察するに、これは恐らく真実で何か大きな手掛かりになり得るかもしれないと思うとまた違う緊張感にも襲われた。
「奪われた、って…」
「殺されました。」
予想は、していた。
していたけれど、受け入れられるかどうかはまた別で。
「だから本当に危険だと、貴女に分かってもらいたいんです。」
柊羽は、この沖矢という男を自分が警戒している理由が何となく分かった気がした。
こうやって断れない理由を固めて、自分から選択肢を奪うところが安室と似ている。
きっとそれを認めたくなくて頑固になっていたのだと思う。
今日の言葉も全て、自分のことを考えてくれているんだと、本当は分かっていた。
「…狡い人は、きらいです。」
それは、精一杯の強がり。
そんな言葉もフッと笑って躱すこの男は不思議と自分よりもずっと大人に見えた。
「あぁそれと…」
今度はなんだと目を向ける。
「彼が探している赤井秀一も亡くなっています。」
「え…」
思わず新一の方を見ると、ダメ押しされた。
「FBIの人間だとバレて殺されたんだ。目撃者もいるし証拠もある。」
「そ…っか。」
肩透かしをくらったような、どこか肩の荷がおりたような、なんとも言えない感情に襲われた。