第13章 付かず離れず
柊羽は珍しく、少しおめかしをしていた。
その原因は遡ること数日前、いつものようにポアロで仕事をしている時のことだった。
その日は梓が休みで、店内に安室と二人きりになるタイミングがあった。
柊羽は少し休憩しようと思いドリンクを持ってカウンターに移動して食器を洗う安室と向き合い、何か話しでもしようかと考えていた。
すると突然安室が言い放ったのである。
「柊羽さん、今度の日曜、デートしませんか?」
願ってもないお誘いに、ストローをくわえたまま固まる柊羽。
「あ、もしかして迷惑でした?」
それを困惑と捉えたのか、安室が躊躇しながら聞いてきた。
「え、あ、ちが!すみません、びっくりして。」
「まあ…そうですよね。付き合ってるフリをしているだけならそんな必要ないですし。でも折角ならこの状況を楽しんだ方が有意義な気がしません?」
柊羽にとっては、想い人とデートなんて有意義どころの話ではなかったが、少し後ろめたさを感じたのも事実で。
「私と外で会っても大丈夫なんですか…?」
「?…なぜですか?付き合っていることになっているんだから、むしろ会わない方が不自然だと思いますけど」
それは一理ある。
当の本人がそう言っていることだし、自分には何もデメリットはないので柊羽は誘いを受けることにしたのだ。
そして、本日に至る。
家の前に迎えに行くと言われただけで、どこに行くかは分からない。
(なんだかホントのデートみたいでドキドキするな)
まもなく待ち合わせの時間になろうとしていたので、靴を履いた。
自然と、あの写真が目に入った。
別に悪いことはしていないし、天国で彼も応援してくれているだろう。
でもちょっとだけ、自分だけ前に進んで彼を置いてけぼりにしてしまうような…切ない感覚にも襲われて…
いつまでもここに飾っておくのもどうかと思いつつも、なかなか仕舞うことができないのだ。
(いかんいかん。遅刻しちゃう。)
いつか恋人が出来たら、仕舞おう。
それまで見守っていて欲しい…と届きもしないお願いをして玄関を出た。