第3章 散り、咲き乱れし華【R18】
食事を終え、二人は食器をどちらが片付けるかで話し合っていた。
煌「雪音が作ってくれたんだし、僕に片付けさせて?」
雪音「いいえ、今日は私がお兄様に全てして差し上げたいんです」
何とも和ましい、どちらも譲らぬ言い合いが続く。
煌「僕は、雪音の手が荒れてしまったらと思うと辛いんだ」
雪音「それなら私だって、お兄様の手が荒れてしまったら悲しいですっ」
言い終わった途端、二人は顔を見合わせて笑った。
下らない、そう思った訳では無い。煌も雪音も互いを想い、また、愛していた。
煌は優しく弧を描く様に目を細め、雪音は口元に緩く握った拳を添える。そして、クスクス、と何とも上品に笑う両者。
今宵起こるだろう悲劇など微塵も感じさせぬ程、それは穏やかに流れる時間であった。
不意に煌が顎に拳を添え、考え込む。そして、人差し指を立て雪音に提案をした。
煌「じゃあ…僕と雪音、一緒に片付けをしよう。それなら、ずっと一緒に居られるし、どうかな?」
煌の提案もまた、仲の良い兄妹を主張するかの様に、和ましいものであった。
兄の提案に、一瞬目を丸くして驚いたものの、雪音は再びあの愛らしい笑みを浮かべた。
雪音「え……お兄様がそうおっしゃるなら!」
明日になれば、また兄は帰りも遅くなるのだろう。雪音は今まで忙しく働いていた兄を、今日は労いたかったのだ。
だが同時に、少しの時間でも兄と離れたく無かったというのも事実であった。
たった一人の家族、それ故に共に過ごせる時間を大切にしたかった。
二人でキッチンに向かう姿は、他人が見ると、きっと新婚の夫婦の様に見えただろう。それは、食器を片付ける二人の姿も同じであった。
肩を並べ、煌が洗った食器を雪音が布巾で拭う。それは、和ましき雰囲気の中、家族である以上の愛情がある様にさえ見えた。