第2章 幕開け
会社前に停められた車、運転席に乗ったまま煌が来るのをじっと待つ野崎。
無駄な時間を嫌う煌、にも関わらず今日はやけに遅い。
会社で何かトラブルでもあったのだろうか、一度社長室に戻った方が良いだろうか…と野崎がドアを開けようとした瞬間、会社から煌が出てきた。
野崎には煌の足取りが荒っぽく、またその顔色は険しく映った。
車に乗り込む際も、ドカッと車が揺れる位、思い切り腰を下ろす。一体何があったのか野崎には見当もつかなかった。
今までとは打って代わり、吐き捨てる様に次の場所を指定される。
野崎はハンドルを握り、車を発進させた。
やって来たのは街中。
車を路肩に停めさせ、行き交う人々の波を車の窓越しに目を凝らして見る煌を、ミラー越しにちらりと見る野崎。
それは何とも間の抜けた光景の様であり、張り詰めた空気を感じさせる様でもあった。
不意に煌が車の窓ガラスに軽く拳を打ち付けた。
煌「…見つけた」
にぃ、と口角の端を吊り上げる煌の様子は、まるで悪戯を思い付いた子供の様だと野崎は思った。
一言呟いたと思えば、煌は足早に車から出て行ってしまう。
野崎は車内で待機している事にした。
見れば、綺麗な赤茶色に染められた髪をした少年が歩いていた。両脇には二人の少女がそれぞれ少年の腕を抱いている。
不意にその三名の中心に居る少年に、煌が話し掛けた。
煌「初めまして、飛鳥君?」
飛鳥「初めまして-。お兄さん、どうして俺の名前知ってるのかな?」
煌「紹介して貰ったんだ、君の後輩君にね」
野崎の居る車内には、窓を開けてみても何を話しているのかまでは聞き取れなかった。
しかし、瑛と呼ばれた青年の時の様な張り詰めたものは感じられず、心なしかホッと胸を撫で下ろす野崎。
飛鳥「わお、俺ってば男にもモテちゃった訳だ?なーんて。一体どんな用?」
煌「そうだね…」
煌が飛鳥の両脇に立つ少女達へ、一瞬だが邪魔だとばかりに視線を向ける。
すると、何かを察した様に飛鳥は少女達の肩を抱いて二人の頬に軽く口付けた。