第12章 スティーブ・ロジャース(MCU/誕生日)
外壁を打つ激しい雨の音に目が覚める。温もりを吸い取った上掛けを退けながら気怠い身体を起こして緩慢な動作で振り返ると、時計は朝方の五時を指していた。眠りについてから三時間しか経っていない。再び枕へ頭を埋められるほど微睡みに浸っているわけでもなく、急速に覚醒する意識。それとは裏腹に身体は鈍く重く自在に操れない。
(雨は嫌いだ……)
カーテンから差し込む日の出前のスティールブルーが、尾の長い雨の水滴に模様を切り抜かれている様子が寂寞感を増長させていく。シーツを握る手元へ落ちる影は俺の肌を濡らしているように見えた。見えただけだ。
ベッドから降りて窓枠にもたれかかりながら外界を窺うが、豪雨から成る厚い層のせいでお向かいのアパートすら良く見えない。大荒れの天候だった。弱り目に祟り目……おまけに雷まで発生しているようで、東の空が明滅した後すぐに空の裂ける嫌な音が辺りに響く。距離にして一キロ圏内といったところだろうか。
(……くそ)
地鳴りが収まっても身体の不調はしばらく続いた。どうやら体内の合金が気圧の変化に耐えかねて変調をきたしているようなのだ。腕や脚は勿論、内臓や頭部が締め付けられる息苦しさや鈍痛は雨が降り出す前から始まる。降り始めれば楽になるかといえばそうでもない。湿度が高くなればヴィブラニウムは流動し、血肉の中を駆け摺り回るからだ。その瘙痒感で集中力は途絶え、どうしようも出来ないに苛立ちに気も短くなるのだからやるせない。
(……)
足取り重くキッチンへ向かって簡易的な冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。普段ならペットボトルのキャップなど大した力も出さずに開けることが出来るというのに、油を差し忘れた錻のように自由が利かない指先では小さな蓋を摘むことすら難儀する。突沸する怒りが俺の肩肘を余計に強ばらせていることなんて分かっている。頭が冴え渡っているからこそ気味が悪いくらい意思と反する身体が恐ろしくて腹立たしいのだ。
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