第11章 スティーブ・ロジャース(MCU/ご飯デート)
店員を呼び、適当に料理を注文する。スティーブが食べてみたいと言ったのは甜品の桃饅頭だけで、後は俺に任せるとの事。彼が辛い物を得意とするかは分からなかったから味付けが至ってシンプルなラインナップで頼んでおいた。
訛りのある英語混じりの広東語で、厨房に料理名を叫び入れて伝票を通す店員の背中を何の気なしに見詰める。デリバリー中華にはない外食ならではの活気と本格的な味を想像したばかりに今までの緊張が溶けて腹がくうと鳴った。
(料理が来るまでにはスティーブと離れられれば良いな)
空腹を感じてから数十分後。結局は大して身を離す事は出来なかったが、利き手が交差するわけでも食べたいものが重なって喧嘩になるわけでもなく平和に食事を終えることが出来た。俺が数秒だけ箸を止めて小皿を探せばスティーブがすかさず目当ての物を渡してくれたり、また、彼が小籠包を食べたいと思った気がして机上の醤油を渡せば「欲しかったんだ」と礼を言われたり、寧ろ連携は取れていたと思う。食後のお茶まで本当に穏やかで居られたのは、混み合う店内において幸福なことだったに違いない。
(4)
「……私は何を聞かされたんだ」
ギイッと油の差されていない音を鳴らしながら椅子を僅かに回したトニーは『報告』を聞き終えた途端、盛大な溜め息をついた。両手に持つ整備キットで真新しいリアクターを点検していたようだが、俺が興奮したようにスティーブとの『食事』について捲し立てている内は手を止めて聞いてくれていた事を腕や肩の動きで分かっている。
「何って……なあ、彼にも少なからず俺への愛情はあると思うか? 専門家に意見を伺いたくて」
「嗚呼、神様。そんなこと私の口から言わせないでくれ、聞いているだけで胸焼けを起こしそうだった」
「そんなに油っこく無かったけど……」
「料理の話じゃない、君とロジャースだ!」
吠えるなり整備キットを机上に放り投げたトニーは本格的に椅子を回し切って俺の方へ身体を向ける。ひと唸りして束の間、薄いブルーのサングラスを胸元のポケットから取り出して仰々しい仕草で身に付ければ、私服でそわそわしている俺の目の前まで幅広の歩調で近付いて来た。その勢いのまま突き付けられる指と「自分で考えろ!」という台詞の鋭さたるや。
終わり?