第11章 スティーブ・ロジャース(MCU/ご飯デート)
結局のところ俺とスティーブの好みは限りなく近い。味わい深いコーヒーと新鮮な野菜や肉を挟んだプレスサンドを求めれば自然と好みの店が似通ってしまうのは仕方の無い事のように思えた。
オフであればヒーローとサイドキックの関係性は一旦の終息を迎える。だから必ずしも連れ立って外出はしないのだが、やはり好みが似ているせいかタイムズスクエアの雑然とした交差点の渦中であっても邂逅することが良くあって、そうなれば『一緒に昼食でもどうだろう』となってしまうのだ。
個人としてはこんな幸福なことは無いと思っている。まるで示し合わせたかのようにスティーブと出会してオフの日も一緒のテーブルを囲めるだなんて、嬉しいという気持ち以外のなにものでもない。それはファストフードであろうとフレンチであろうと、彼と一緒に居られるならなんだって良い。
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なんだって良いとは言ったが、込み合った中華料理屋で相席しないとならず、しかも何故だかスティーブと抱き合わんばかりの距離で並び座る必要がある場合は別ではないだろうか。スティーブが俺の肩越しにチェアの背もたれを掴むから、自慢の筋肉が文字通りに俺を包み込んでいる形だ。密着する肩と胸、腰と腰、脚と脚。肋の中で暴れ狂う心臓のせいで落ち着いた食事は期待できないかもしれない。
ちらりと彼を見上げると彼も俺を静かに見下ろしていた。かと思えば次の瞬間には「こんなに混んでるなんてね」と困った風に笑みを噛んで、笑った拍子に漏れた甘い吐息を俺の唇に落とし込む。いや、距離感が死に過ぎでは。彼の向こうが壁で良かった。俺の露骨にときめいてしまった表情を誰かに見られることは無い。
万が一にもスティーブからの好意に強い確信を持っていれば、この距離まで顔が近付くならキスも出来るのだが……というかもうキスの距離なんだが、今は運命の悪戯のように店が昼時の大繁盛に慌ただしく、たまたま席が四脚テーブルのソファ側二席しか空いていなかったというだけで、スティーブも好き好んでこの距離感でいる訳では無いというのが現実だ。
(……)
彼も人の子だし、唇を交えようかというところに大して好きでも無い人間の顔があれば嫌そうにすると思うから、そこに関しては自信を持とうと自分を勇気付ける。
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