第1章 スティーブ・ロジャース(MCU/EG)
(3)
現代のキャップはアタッシュケースから転がり出てしまったロキの杖を大急ぎで引き掴むと、「君は本当にロキを愛しているのか」と『恋人発言』に動揺して俺を糾弾するまでに至った過去のキャップの胸にその切っ先を突き付けた。マインド・ストーンの威力は凄まじく、あっという間に過去のキャップは意識を混濁させ、俺に覆い被さるように倒れ込んで来る。
大柄な身体を抱き留めた刹那、彼の腕は素早く俺の背に回り込んで型破りな剛力を発揮し、しがみついてきた。次第に脱力して重さを増していく肉体に苦心していれば、耳朶へ「君は間違ってる」という言葉を囁き掛けられ思わず息を詰める。
「……っ」
「レイン! 無事か!」
「!」
宙ぶらりんになった否定の言葉を最後に腕の中で呼吸を落ち着けた男を、現代のキャップは無理やり引き剥がして床に転がした。仮にも自分自身なんだからもう少し丁寧に扱っても良いと思うんだけどな……と考えはすれど、地に伏す己の背を険しい表情で見詰めながら肩で息をしているキャップにおいそれと声は掛けられなかった。まさかスコットに言われた『アメリカのケツ』を気にしていたとは露とも知らずにいたけれど。
キャップは荒々しい仕草で自分のロケットを取り返して仕舞い込むと、振り返り、歩みを進め、アタッシュケースの元まで辿り着いて杖を収める。バチンという金具が噛み合う音を合図に難なくケースを携えれば、今度はこちらへ向かってきて力強く腕を掴まれた。
「行くぞ」
「……ああ」
俺の腕を引く方の波打つ肩甲骨から僧帽の筋肉をちらりと見上げる。随分と張っていて、緊張しているように見える。キャップは筋肉質だから余計に張り出している様が分かった。
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