第1章 スティーブ・ロジャース(MCU/EG)
「レイン!」
慌てたような溌剌とした声にぎくりと肩が揺れる。複雑な造りのスタークタワーにおいて、バリトンで艶のある低音はよく響いた。恐る恐る呼ばれた方を振り返ると見慣れたキャプテン・アメリカの姿。しかし俺の横にいるキャプテン・アメリカもまた、『面倒だ』という表情を隠しもせずに振り返る。
俺達はサノスが消し去った人口の半分を取り戻す為に過去へと戻り、再びインフィニティ・ストーンを各地から集めていた。だからここに過去のキャップがいても何らおかしくはない。でもよりによって俺達の前に姿を現さなくたっていいのに。そう嘆いている暇もなく、過去のキャップは物凄い勢いで迫ってくる。およそ彼らしくない表情だ。
「ロキ! 彼から離れろ!」
台詞を言い終わるか否かのタイミングでヴィブラニウムの盾が宙を舞う。素早く弧を描いた円盤は真っ直ぐに現代のキャップへと吸い込まれていくが、彼はあっさりとそれを弾く。
金属が擦れ合う音も最高強度を誇るもの同士となると聞きなれない重みが奏でられて、近場にいる俺が瞬間的に聴力を怪しくしたくらいだ。散った火花も目に痛くて咄嗟にロキの杖が入ったアタッシュケースを胸に抱え直すと、二人から距離をとる。
現代のキャップをロキの変身だと思っている過去のキャップは攻撃の手を緩めない。全身を躍動させて手元に帰ってきた盾を再び投げ飛ばせば、負けじと現代のキャップも得物をぶつけて相殺する。
そのまま二つの希少金属は持ち主の手を離れて遥か遠くに真っ逆さま。それを合図に格闘に移行した二人は、ハラハラと成り行きを見ていた俺に構わずに連絡通路の硝子を割り砕いて階下へと転落していく。
「キャプテン!!」
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