第22章 コリン・シー(Wyn)
第一話
俺はなんて馬鹿なんだろう。アリーの住むアパートに着いたは良いものの、部屋番号や連絡先を書き記したメモを自宅に置いてきてしまったらしい。鞄を逆さにしていくら振ってもティッシュのゴミひとつ落ちやしない。直ぐにスマホのアドレス帳へ打ち込めば良かったんだろうけど、変なところで面倒臭がるものじゃないな。
(あー……)
最上階の六階というところまでは覚えてる。でも肝心の部屋番号がさっぱり分からない。A室、B室、C室……うーん、やっぱりダメだ。端からノックして聞いて回るしかないのか、すいませんアリーはこちらですかって。そんなの彼女がこのアパートで生活しにくくなるだけだ。迷惑はかけられない。
(でも……確かアリーの話だと……)
一階層につき四部屋しかないという話だった気がする。それなら階段でそれとなく待ち伏せ、いずれ誰かが部屋を出た瞬間に今昇ってきましたって顔しながらフレンドリーに近寄ってアリーの部屋番号を尋ねれば良いのでは。果てしない人数を待つより三人相手の方が断然良い。よし決まり!
(2)
「着いたぁ」
長い螺旋階段を昇り、いちど六階まで上がった。これで踊り場まで戻ってそのまま待機だ。単調ながら長い上下運動に火照る身体をもう一度叱咤して肩を翻す。だから分からなかった。A室のドアがほぼ同時に開いてしまった事に。
「……誰?」
「ひゃ!」
急に浴びせられた声に慌てて振り返ると公共の場に相応しくない全裸の男が真っ赤なりんごを齧りながら立っていた。本来ならば陰部を隠すべきものであるタオルは、唇を濡らす果汁を拭う為に使われているせいで息子さんが丸見えだ。……そのう、随分とご立派ですね……。
(……じゃなくて!)
言わないと、聞かないと。アリーは何号室にお住まいですかって聞かなきゃ。そうは思って焦るけれど、この体勢からどうやって聞けばいいんだろう。当初の予定とはまるで違って身体の正面が百八十度も逆を向いている。今からさりげなく偶然を装って昇っていっても『一度昇り切った証拠』はなかった事に出来ない。
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