第15章 【2019年版】Xmas②(MCU/鷹and邪)
しかし何故クリントがこんな事を聞く。確かにS.H.I.E.L.D.が俺に個別任務を依頼し評価する際の連絡は彼の役割となりつつあったが、彼は既に戦闘員の肩書きをおろしている。疑問に思いつつも取り敢えず彼の求めた情報を返信すれば、コーヒーをひとくち啜る間にも『急に悪かったな』という簡素な返事が手元を震わせる。どこか怪しい。そんな有って然るべき疑念は、八つ時用で焼いた菓子を摘みながらメールの往来を繰り返す内に判明した事実から解れていく。
(信じられない……)
曰く、いちにちに何本もの通信が入っては過去の任務における精査を依頼され、通信が入らない場所にいればメールが嘆願を報せてきた。煩わしいと思わなかったわけではなかった。それでも求められたものには応えてきたつもりだったが、図々しく鳴り止まない単調な電子音がひと月近くも続けば流石に腹に据えかねた。抗議の為に直接ヘリキャリアへと足を運ぶと、好都合とばかりに捕まってしまった、と。
引退した直後から残務処理に追われていた事は無論知っていたが、十二月に入っても未だ状況が変わらずにいたとは予想外だ。寧ろ悪化しているのではないだろうか。クリスマスも近付こうかという時期ならば、なおさら家族の側に居たい筈だろうに。案の定、しばらく帰っていない様子。どのような機関にも探知されない特殊なバリアを張り巡らせながら稼働する機体の中に在って、軟禁に等しい扱いを受けているのだと思うと涙ぐましいものがある。
片や、S.H.I.E.L.D.は彼ほどの人材をおいそれと手放したくないのだろう。気持ちは分からないでもないが、海上を跨がなければ尋ねる事もままならない場所に縛り付けるなど見下げ果てたものだ。
(俺が彼にしてやれる事は……その為には……)
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