第1章 スティーブ・ロジャース(MCU/EG)
(7)
「それで……その、レインは……」
「スティーブを妬む強い気持ちが俺をスーパーソルジャーにしてしまったよ。施設の一部を損壊させ、ヴィブラニウムを奪って逃げた。しばらく行方を眩ませて身を隠していたけど、スティーブを殺すにはどこに行けばいいだろうと考えた時にヒドラは最適だったんだ」
「マジかよ。それは……うん、なかなかだな」
「その通り。俺はそこで決断を誤った」
自嘲的に笑えばスコットを困らせると分かっているけれど、他にどんな表情をしていいか分からなかった。俺を見下ろす瞳はまるで子を思う父のように優しく慈愛に満ちていて、俺の過去を知って感情を昂らせるようなこともなく静かに相槌を打ちながら耳を傾けてくれている。その情熱が歯痒くて擽ったくてつい俯くと、温かい掌がぽんぽんと頭を撫でてくるから少しだけ目元が熱くなった。
(『俺とスティーブ』について聞きたいなんてね……)
数分前、いざ帰還というタイミングになってスコットは端末を弄る手を止めて俺を見た。「聞きたい事があるんだけど良いかな」と難しい顔をしながら。大義があって任務に就いている今は時間がとにかく惜しいけど、スティーブとトニーに追い縋りかけた俺を見て何かを感じ取ったのかもしれない。「どうせこっちの数時間は向こうの数秒だ、少しくらい道草したって構わないだろ」というスコットらしい気遣いのお陰で、少しだけ彼と話をする事になったのだ。
「話を聞いてると、妬みとは違う気持ちだったんじゃないかと思う。君はキャプテンと対等な関係で居たかったんだろうなって伝わってくるよ」
「冷静に分析されると恥ずかしいな……。でも、俺もそう思えたからこうして改心して彼のそばにいるんだ。償いたいからね。危うく彼から大切なものを奪うところだったわけだし」
「命?」
「というより未来かな。彼が生きるであろう未来。生きていれば救うであろう多くの人間の未来。それを俺が消し去ったりしなくて良かったって実感してる」
「そうか」
今度は心から笑えた気がする。笑顔を向けると、スコットも眦にシワを刻みながら微笑んでくれていた。相変わらず頭を撫でて甘やかしてくるのは、やっぱり擽ったい気持ちにさせた。
終わり