第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)
(後にも先にもその一度だけ。だが……本当に幸せだった)
焦げが散見された七面鳥の丸焼きも、形が不格好なジンジャーマンクッキーも、心から愛している父と一緒だったから全てが美味しくて面白くて幸福だったのだ。大切な人と共に過ごす一日や一瞬は、如何なる『不完全』の隔たりもつまびらかに取り除いて超えて行くものであると幼心に理解した大切な一日でもあったから、余計に記憶へ根差している。
(……)
気付けば雑誌を手に立ち竦んでいた。一際目立つデザインの雑誌にしてやられた思いはあれど、既に俺の気持ちは固まっている。何十年も昔の記憶を頼りにするのはリスキーかもしれないが、たった一度の幸福をたった一度で終わらせたくないという私欲と、新たに出会った仲間達と幸福を共有することが出来たなら……という好奇心の奔流が今の俺を突き動かしていた。
(2)
カウチに座って淹れたてのコーヒーを傾けながらローテーブルに敷いた雑誌を一頁ずつ丁寧に捲っていく。嗜好品類の提供広告やクリスマスに因んだコラムから始まり、手作りオーナメントやヴィーガン用スイーツの作り方などの創作を促す特集が紙面の八割を占めた。残りの二割は未だ広告やコラムである。
折り返しを過ぎた頃になって『間違えないプレゼント選び』とか『これだけは外せないデートスポット』といった特に女性が喜んで食いつきそうな話題が怒涛のように掲載され始めると多少は頁を繰る手が重くなったが、総頁数から比べれば大した情報量ではない。『恋人が喜ぶ性なる夜のランジェリー選び』というなかなかに奇天烈な中見出しが見えた時は流石に背徳感で雑誌を閉じてしまったけれど。溜め息ひとつ、オンラインショッピングという未知なるシステムにまで指をさされて時代遅れを揶揄われた気がしつつ確信に至った。
「昔とはだいぶ様式が違うんだな……」
少なくとも七十年前は二十四日の晩から家族と過ごす事が一般的で、家長を中心に神の誕生を祝福するといった基本的には厳格な印象が強い祭事であったが……今は恋人と過ごす事もまた多いといったところだろうか。
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