第14章 【2019年版】Xmas①(MCU/鉄and盾)
S.H.I.E.L.D.という特殊機関にヒーローの肩書きで籍を置いていようとも、労働するからには決まった回数の年次有給を取得しなければならないと釘を刺され、無理やり休暇をねじ込まれてしまった十二月の一週目。
身体が鈍るのは本意ではないと理由をつけて程々なトレーニングには励んでいたものの結果的には体力を持て余してフラストレーションが溜まるばかりとなってしまい、有意義に暇を潰す別の方法を探さなければと思っていた矢先の事だった。
夕食の材料を調達する為に出掛けた帰り道。交差点脇の小さな本屋に並ぶ、ことさら煌びやかな特集が組まれた雑誌の数々に思わず足を止めた。赤と緑と金を基調としたフォントデザインや中央に大きく描かれた赤い服を身に纏う恰幅の良い男性のイラスト、大きなモミの木を彩るカラフルなオーナメントの写真などを見ると、世の中の流行り廃りに疎い人間でも他教派であっても、この祭の正体が何であるのか分かるだろう。
(『クリスマス』か)
記憶に残るクリスマスの思い出といえば幼い時のホームパーティくらいなものだ。仕事人としては完璧であっても父親としては不完全であった父が、俺の為に一度だけ時間を作ってくれた日がその年のクリスマスだった。
朝から連れ立って真新しいキッチンへ入り、ぎこちない手付きでナイフを握りながらターキーの仕込みに四苦八苦する父の横で、俺はクッキー生地をボウルいっぱいに作った。父は甘いものが大好きだったから俺がたくさん生地を練ると嬉しそうに笑みを噛む。その穏やかでぎこちない笑顔が見たいばかりについ作り過ぎてしまっても、父は優しく微笑むばかりで決して怒らなかった。
あらかたの仕込みが終わると日が出ているうちに教会へ向かってミサに参加した。当時の幼さを考えれば仕方が無い事とはいえ神へ祈りを捧げる意味を理解していなかった俺は、周囲の大人に倣って手指と睫毛を絡ませてみても、頭の中は「ダディとまた一緒にご飯が食べられますように」という願い事で満たされていた。
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