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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第8章 苦い再会


「君、一週間探偵社に入室禁止ね」

 会いたくないんだろう? ならば会わなければ善いじゃないか。太宰さんの云う事は尤もで。わたしは何も云えずに立ち竦んだ。

「私の呼び出し以外では探偵社に来るな。……少し頭を冷やし給え」

 君の行いが絆の糸の綻びを作ったのだから。ジャリ、ジャリと音を立てて太宰さんは少しずつ遠ざかって行った。
 ふわり、ふわりと『蛍の光』がわたしの周りを舞う。
 苦しい、苦しい。折角会えたのに。本当は大好きなのに。正面切って抱きついて『ただいま』って言いたかったのに。もう戻れない。

「朝なんて来なければいいのに」

 そうすれば、夜の闇に溶けて、何もかも忘れて、そのまま消えてしまえるのに。わたしはぽつりとそう呟いた。



 ──彼女はどうやら混乱しているようだ。探偵社から逃げ出した理由は察しがついている。大方、「自分の所為で皆を巻き込んだ、自分は人殺しだ、皆の元に居たら迷惑がかかる」などと考えていたのだろう。
 異能が変わった、自分は汚れてしまった、と自分を嘆いていたら何も始まらない。自分を憐れめば、人生は終わりなき悪夢なのだから。

「ふぅ……」

 私は一つ溜息を吐いた。このままでは、世界の歯車が狂い始めるまでそうかからないだろう。
 朝が来なければいいのに。ぽつりと零れた本音が耳に入った。
 夜の闇に溶けて、何もかも忘れて、そのまま消えてしまえるのに。そんな彼女の呟きが聞こえた。何時もの凛とした綺麗な声ではなく、泣きそうな、くたびれた声だった。

「君がそれを望むなら、私は……」

 ぽつりと呟く。その呟きは誰の耳にも届くことなく、風に乗ってふわりと消えた。彼女がゆっくりと歩き出すのを音で確認してから、私も歩き出した。願わくば、また何処かで交われますように。

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