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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第16章 帰還


 鏡花ちゃんが嬉しそうに出て行く。わたしは其れを見送ってからまた編みぐるみを作り始めた。
 編み物は意外と時間が経つのも忘れるくらい集中出来る。なんて編み物を称えているとまたドアがノックされた。

「泉、居るかい? 昼餉だよ」

 ひょいっと覗き込んだのは与謝野さん。わたしは編み物の手を止めた。

「どうだい具合は」
「身体は元気ですよ。編み物も出来るし」
「編み物は関係ないよ。さ、温かい内に食っちまいな」
「はぁい」

 頂きます、と両手を合わせてからお盆に乗った食事を摂る。動かないことを考慮してか、食事は比較的消化の良い物ばかりだった。
 わたしの食事の速度と足の様子を看た与謝野さんは何やらカルテに書き込んでいく。わたしが食べ終えると同時にカルテを閉じ、お盆をスッと下げた。

「大分足の色も戻って来てるし、明日の朝の様子によっては外出許可も下ろせると思うよ」
「!」
「た、だ、し。余り激しい運動はするンじゃ無いよ? 歩くより速い速度は禁止。走るなんて以ての外さね」

 じろりと睨み付けられ、わたしはしゅんと沈み込んだ。「こう言わないと、アンタまた無茶するだろ?」確かにその通りである。

「それともまた種戻すかい?」

 ニタリと悪い笑みを浮かべられ、わたしはぶんぶんと首を横に振った。与謝野さんは軽く溜息を吐き、腰に手を当てた。

「起きてるのは良いけど、ちゃんと睡眠取るンだよ? 鏡花が出掛けるの楽しみにしてるからさ」
「はいっ!」

 へへ、と笑うと与謝野さんも優しく微笑み、医務室を出て行った。さて。針と毛糸と編みかけの物を布団の上に戻した時、携帯に電話が入った。表示された名前は非通知。わたしはきゅっと眉根を寄せた。

「……もしもし、如月です」
『泉か。俺だ、中原』

 聞こえてきた珍しい声にわたしはきょとんとした。如何したのかと問うと、わたしに渡したい物があるとの事。

『本当は太宰に渡すンだが、あの青鯖には会いたくねェからな』

 相変わらずの恨み言に、わたしは思わずくすりと笑みを漏らした。

「判りました。明日は如何ですか?」
『構わねェよ。場所は前と同じバーだ。判るか?』
「ええ、覚えてます。集合は夜?」
『嗚呼。一人で来れる……よな』
「莫迦にしてます?」
『してねェよ。じゃ、明日な』
「はい、また」

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