第1章 1 (裏なし)
急に心が冷えきっていく。
なのにどこか熱い感情が込み上げてきて、鼻の奥がツンとする。
視界がぼやけていく。
「………………。
そうやって、都合いいときだけ…………
家族って言葉を使うの?
私を家族と思っていたなら…
10年前、どうして私を置いていったの?
10年間、どうして1度も会いに来なかったの?
会いに来たと思ったら…ただ私を利用して調査兵団を守るため?
………………やめてよ。」
「……………………。」
今どんな顔をしてるんだろう。
論破されて戸惑う顔だろうか。
それともうっとうしいと不快そうな顔だろうか。
涙をぬぐって私は顔を上げた。
「…………………。」
こいつの表情筋はどうなってるんだ。
全く表情が読めない。
無表情だった。
私だけが感情的になっていてバカみたいだ。
「…………なんか言ってよ。」
「………………別に構わねぇ。
協力しろ、とは強制しない。
ソフィアにとってはリスクだけだ。
だから強制はしねぇ。
そんなに俺が憎たらしいなら、協力を求めたことを憲兵の上官方にゲロしても構わねぇぞ。
そうしたら俺のクビなんてすぐに飛ばせる。
ただでさえ今の俺は崖っぷちだからな。
そこはソフィアに選択権がある。」
的外れな返事にイラつくと同時に、意外な言葉に思考が止まる。
「協力しなくてもいいって…
ここまでしゃべっておいて、私が憲兵団に密告してもいいって…
ちょっと正気なの?」
「あぁ。
俺は賭けたからな。」
「賭けたって…」
「ソフィアがこの話を引き受けると、信じたからだ。裏切られても、その結果を受け止める覚悟はある。」