第2章 〜突然の別れ〜
義元と同盟を組んでいた桜奈の
国もまた、竹千代の国と同様
敵対する大国の狭間にあった。
力の差は、余りに大きく
独立独歩の国を維持しようとすれば
あっと言う間に大国に呑み込まれ
滅ぼされてしまう。
国を守るため、民を守るため
今川との同盟と言う名の
従属に従わざるを得ない
苦悩があった。
桜奈の父は、頭が切れ
策にも長けた才覚を持ち
それ以上に、誠実な人柄だった。
そんな人柄ゆえ、人望も厚く
民にも慕われる大名であることは
近隣諸国にも噂は届いていた。
織田信長はその人柄を
気に入り同盟を結び自分の右腕に
したいと常々狙っていたのである。
しかし、それは義元とて同じで
手放すわけにはいかない人材だった。
味方にすれば心強いが
敵となれば、手こずる相手だと
承知していたからである。
桜奈は、そんな父の人望の
お陰で人質にこそされなかったが
代わりに、竹千代の許婚とされ
人質同然の立場には代わり
なかったのである。
そんな娘を不憫に思いつつも
どうすることもできない父の苦悩。
父は娘の幸せを祈り
いずれ夫となる竹千代が
立派に成長を遂げてくれることを
願っていた。
人質生活の中で、傷つく竹千代に
我が子同様に接し、竹千代の心を労った。
その労わりは、竹千代にも
痛いほど伝わっていた。
竹千代が幼心に父のように慕い
唯一、信頼できた、今川側の人間。
信頼し尊敬する人の娘であるからこそ
余計に、立派な武将となって
桜奈の父に認めてもらえるような
桜奈に相応しい男になりたい。
そう思うようになっていったのだった。