第6章 〜二人の姫君〜
栞は、自分が織田家の一員として
歓迎されるまでに至ったのが
信長様お陰であると、雪姫に聞いて
知っていた。
お茶を吹きかけた時の信長様の揶揄いも
栞が危険な人物でないことを
家康の見定めを通じて、秀吉を
安心させる為。
雪姫に姫君特訓をさせたのも
こうして家臣だけでなく大名達にも
栞を立派な姫君にすることで
立場を安定させる為。
そう雪姫は教えてくれた。
栞は、改めて、信長様の懐の深さと
優しさを自覚した。
そして、その感謝の想いを伝えるため
密かに信長にプレゼントを用意していた。
『信長様、これまでの数々のお心遣い
本当にありがとうございます。
もし、良かったらこれを受け取って
頂けますか?』と手渡したのは金平糖と
真紅の裏地と漆黒の表地、金糸の刺繍で
縁どられ、両胸には、織田家の家紋の刺繍。
裏地の襟下には、天下布武の銀糸の
刺繍がされたマントだった。
栞の中では、時代劇で観る信長が
マントを着ているイメージがあり
作ってみたのだった。
信長は、たいそう気に入り
『栞、気に入った!礼を言う』と言って
早速、羽織った。
家臣一同から『おぉー!』と歓声が上がり
口々に、『よくお似合いです』と言って
栞の裁縫の能力の高さを褒め称えた。
信長は栞の肩をぐいっと
引き寄せると『やはり、貴様、俺の
女にならぬか!』と言い寄った。
家臣達の前で、そんな台詞を言われ
(/// かぁっ〜 ///)と真っ赤になる栞。
『か、揶揄わないで下さい!!』と
俯いた。
家康は、その光景に
ムッとし、信長を睨んでいた。
正室候補とされる雪姫の前で
栞を口説く信長様に腹が立った。
自分自信が、雪姫に好意を抱き
始めている事は自覚していた。
ただ、<雪姫は、信長様の正室候補>という
噂話と雪姫の信長様への全幅の信頼の
様子からも雪姫が信長様を好きだと
信じ込んでいた。
だからこそ、栞を口説く信長様のせいで
雪姫が傷ついたかも知れないと
思うと許せなかった。