第3章 〜失われた光〜
信長に救い出された桜奈は
三日三晩熱にうかされ
生死の境を彷徨っていた。
『はぁっ・・はぁっ・・』荒い呼吸が続く。
そして、時々、寄生を発するように
父と母を求め叫び、空を掴むように
腕を伸ばす。
意識がないのに涙は止めどなく溢れ
頬を伝った。
看病を続けていた女中頭は
その痛々し姿に『おいたわしい』
と涙を流した。
4日目の朝を迎え、桜奈の容体は
少しずつ落ちつきをみせ、呼吸も
安定してきたが、まだ予断を許さない
状態だと、医師は信長に告げた。
様子を見にきた信長は、
気を抜かず、看病を続けるよう指示し
広間へと向かい、軍議が始まった。
光秀は、此度の上杉城の進軍は
家臣による謀りごとによるもので
今川軍は、桜奈姫も両親と共に
死んだと流した、偽の情報を信じている
ようだと報告。
一方、秀吉は、多くの民が鷹山殿の
指示により避難し、民への被害は
殊の外小さかったこと、家屋や田畑への
侵襲も最小限で抑えられたと報告。
ただ、今川の厳しい年貢のとりたてもあり
大量に流入してきた上杉の民達が
今川領となった土地に戻るかは
今暫く、様子を見ていく必要が
あると報告した。
各自の報告を脇息にもたれ
聞いていた信長。
報告を聞き終わると
鉄扇をピシッと閉じた。
そして、凍てつくような
ぞっとする表情で
『こののち、義元の首をとり今川を滅ぼす』
と家臣達に宣言したのであった。
(待っておれ、義元。貴様だけは許さぬ!)