第12章 〜それぞれの覚悟〜
『信長様、未来へ帰る為の
通路が開くまで、一週間を切って
しまいました。先日、偶然に
同じ未来からきた人に、城下で
出くわし、話を聞きました。
次に通路が開く場所が
今、家康が、戦っている
戦さ場だそうです。
私も、一緒にその場所まで
連れて行ってもらえませんか?
お願いします』と頭を下げた。
『それは、確定している話なのか?』
寂しさを、隠すように信長は
尋ねた。
『はい、戦さ場に通路が開くのは
ほぼ間違いないそうです。』
『わかった、荷物をまとめ
準備するがよい。』
信長は、話を終え出て行こうとする
栞を後ろから不意に抱きしめた。
『すまぬ、帰れと言ったのは
わしじゃ、惑わすつもりなどない。
ただ、貴様の温もりを覚えておきたい。
今暫く、こうさせてくれ』
栞は、嬉しくて、涙が出た。
栞は、自ら体を翻し、信長の胸に
顔をつけ、栞も信長を抱きしめた。
信長は、栞の頭と肩に手を回し
ぎゅっと抱きしめたのだった。
栞の心は、既に決まっていた。
しかし、どうしてもやり遂げたい
事があった。それが失敗しても
成功しても、どちらかの時代の
愛する者と二度と会えなくなる。
栞は、自分の覚悟を自分の
想いの強さを自分自身に
証明しようとしていたのだ。
『信長様、これだけは忘れないで
下さい。信長様に出会い
恋したことは、私にとって
一生の宝物です。
この気持ちが、褪せる事は
この先も絶対にないです。
どの時代で生きていようと
私は信長様の作る世で信長様の
ことだけを想って生きて
行くつもりです。』
そう言って、覚悟の決まった
眼差しで信長を見つめた。
信長の瞳には、かけがえのない
ものを見つめる愛おしさが溢れていた。
『栞、貴様もこの信長の生涯で
ただ一人、思い通りにならぬ
女だった』とフッと笑った。
二人は、今生の別れを覚悟した
口付けを交わした。
お互いに、お互いの温もりを
刻み込むように、激しく甘く
溶け合うようなそんな口付けだった。
栞の荷物は、既にまとめてあり
秀吉に事の事情を説明し挨拶をした。
『秀吉さん、お世話になりました。
本当にありがとうございました。』
と深々と頭を下げた。
『おう、元気でな!栞がいなくなると
城の中も寂しく?いや静かになるな』
と、言うと、『ひどーい!!』と
ぷぅっと頬を膨らます栞。