第2章 Kからパイセンへ
「こんなこと後輩に話すの本当に恥ずかしくて情けないんだけどさ」
「うん」
「実は今の会社、倒産するらしいんだわ」
「・・・うん」
「そのこと彼女に言ったらさ、ヒモは無理、とか言って振られちゃってよ。俺がいつヒモになるって言ったって話なんだけどさぁ」
「ヒモだっていいじゃん」
「まぁならねぇけど。実は彼女の方が稼いでてさ、同棲してたんだけど、彼女名義の部屋だから俺が出ていかなきゃいけなくて」
「新しい家決まってるの?」
「まだ全然。仕事もねぇし、しばらくは実家に戻るかなぁ」
「実家微妙に遠かったよね?」
「そうなんだよめんどくせぇ~」
あの日のあのコンビニ。ナマエの情けない話を並んで聞いていた。
不思議だった。隣にいるくたびれたスーツを着た情けないナマエは、自分が好きになったきらきらした大学生のナマエとはまったく変わってしまっている。それなのに、こんなにも鼓動が早くなって、触れたいと思うのがとてつもなく不思議だった。
「なぁカンタぁ・・・」
ナマエが寄りかかってきた。女がするように、こてん、と頭をカンタの肩に乗せる。
そうして上目遣いでカンタを見やった。
「カンタぁ、たすけて・・・」
ナマエはふざけているつもりだろう。けれど、この可哀想な男を助けたいと思った。
今でも覚えている。助けを乞われたとき、間違いなく自分はナマエに欲情した。
気が付けば、自分たちの家にナマエを誘っていた。
寄せられた肩に腕を回した。ナマエがどこかに行かないように、しっかり家に連れて帰れるように。
もう、どこにも行かないように。
ナマエはすっかり水溜りハウスの住人になった。しかしキイチからたまに、ナマエが家を出ようとしていると報告を受ける。その度にトミーと阻止しているけれど、それもいつまで有効かは分からない。
夜になると不安になり、ナマエの部屋に行く。
気持ちよさそうに眠るナマエの頬に指を滑らす。起きない様に優しく、やさしく。
「だめだよナマエさん。もうどこにも行っちゃだめ。ずっとここにいて」
夢の中までカンタの言葉が届いたのか、ナマエの眉間に皴が寄り身じろぎをした。
その動作が自分の思いを嫌がっているようで、カンタは少しだけ悲しくなった。