第1章 気まぐれ
気まぐれ
ある日の調査兵団の調整日の事だった。男は積もり積もった書類に飽き飽きし訓練兵の訓練場にランニングに出た。壁外調査直後であり疲れ切ってはいたが書類作業は実は彼の苦手なものだった。
その日は訓練兵も休みの日であり訓練場はシンと静まりかえっていた。
(ここが訓練兵の訓練地か)
見るともなしに走っていた時である。立体起動用の訓練柱で一人の女子がたった一人でバランスを取る練習をしていた。だが…どう見ても上手くは行っていないようであった。彼女は何度もバランスを取ろうとしたが、どうしても頭が下に吊られてしまう状態だった。
(へったクソ…)
男はランニングをしながら様子を見ているが、何度も何度もひっくり返ってしまい、しまいには頭に血が上っているようで顔が真っ赤だった。
男は調査兵団兵長として戦線の最前線に立っており、人類最強の男と称されていたが、実のところ彼は訓練兵を経て現在に至っているわけではない。そのため彼は訓練兵の訓練に少し興味を寄せていた。
「おい、そこのお前。そこで何をしている。」
男がその女子に声をかけると、彼女は“しまった!”という表情をすると宙づりになったままの足を体を大きく揺らしレバーハンドルのある支柱にとりつくと自らハンドルを回し地面に降り立った。が…息は絶え絶えで顔は血が上り真っ赤で立っているのもやっとという風だった。
彼女は誰とも知らぬが一応“上官”であることを察したのか左胸に拳を上げ敬礼をしながら
「はっ、立体起動用の練習をしていました。」
「立体起動装置の訓練?これがか?」
男はフンと鼻で笑うと内心では
(こんなもんで身につくもんか)
とも思ったが、今の調査兵団の団員も最初はこのようなトレーニングを経てやってきたのだろう。だが、男はこの訓練法はやったことはない。
「おい、お前。お前の装備を俺に寄こせ。」
「えっ?!」
「お前の装備を寄こせって言ってるんだ。グズグズするな!」
「はっ!」
上官の命令は絶対だ。女子は急いでベルトを外し男に手渡すと、彼は手早く装着した