第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「上様…そろそろ…戻りませぬと…」
声が届くところまで近付き、おずおずとそう言った。
上様の肩に凭れかかっていた御台様がゆっくりと身体を起こしてこちらを見た。
その目に、急に申し訳ない気持ちになってしまい、深々と頭を垂れた。
そんな私に、御台様が、
「かず、いつもありがとうね」
と、そう言った。
「……あ、い、いえっ」
「かず、帰るぞ」
上様も、そう言って御台様の肩を抱いて立ち上がった。
「はっ!」
ここまで来るときは、別々の馬で来たのだが、帰りは一緒に馬に乗っていくと上様は言った。
「しかし…もう暗くなり始めていますし…何かあったら…」
「大事ない。今は片時も御台と離れたくなのだ」
「えっ…」
上様の言葉に、今更ではあるが顔が熱くなった。
「何を赤くなっておるのだ、和。」
「あ、やっ、申し訳ありません」
「はははははっ…お前も早く嫁を娶れ。」
「ぎょ、御意…」
…上様はこの上なく上機嫌で、お二人でどのような話がされたのかは分からないが、少なくとも御台所様は今まで通り…
いや、恐らく今まで以上に上様からのご寵愛を受け続けるのだろうということは、容易に想像できる。
問題は、
解決したのだ。
今までと何も変わらず、私は上様と御台所様にお使えし、ここで一生を送るのだ…
………上様のお側にいられる幸せだけを、胸の奥に秘めながら……
城までは直ぐだ。
雅紀様もさぞやご心配されている事だろう…
さあ。
帰ろう…
私の住む場所へ。
上様が先に馬に跨り、御台様の手を取って引き上げる。
小柄な御台様は、上様の腕の中にすっぽりと納まった。
馬に乗る一瞬、
控えている知念と目が合い、
御台様が僅か口元だけで笑い、
それと同じように知念も笑った。
誰も知らない…
昔々のお話…
魑魅魍魎渦巻く、
お江戸の城下は、
今宵も急ぎ足で暮れていった……
【 御仕舞い 】