第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「上様、お耳に入れたきことが…」
鷹狩りから帰り装束を解いていると、近寄ってきた雅紀が声を潜めた。
「なんだ?」
「はい……」
周りの様子を伺う雅紀。
「もう下がってよい」
着替えをしていた小姓たちを皆下がらせ、人払いをし、雅紀と二人になった。
「で?耳に入れたきこととは?」
高座に座りながら、そう言うと、
「……」
雅紀は、話すべきなのかをまだ悩んでいるかのように俯いているが、急かさず待ってみた。
雅紀が持ってきた、人払いをしなければならなかった話というのは、信じがたい内容だった。
さとの実家の廻船問屋『大野屋』は、今や江戸一番の大棚となった。
江戸どころか、日本中で手広く商いを展開している。
もちろん、幕府の後ろ楯あってのこと。
御台所の生家ということで、何かにつけて取り立てられるのは当然のこと。
しかも、大野屋も、その事をちらつかせ取引を持ちかけてもいるのだろう。
驚いたのはその後の話だ。
さとの父親である大野屋の主人は、五男として産まれたさとを、産まれたときからおなごとして育てた。
それはさとにも聞いていた。
だから、自分に兄たちと同じものが付いていても、そういうものなのだと…
そう思って育ってきたのだと。
それが子どもの頃、母親に、
『お前は本当は男なのだ』
そう聞いたときも、驚くというよりは
『ああ、そうなのだ』
と、そのくらいの感じだったのだと…
しかし、雅紀が言うには、
さとの父親は、どうしても娘が欲しくて、五人目も男だったと知ったときは落胆し、そして生まれ落ちたばかりのさとを、おなごとして育てることを決めた。
それだけ聞けば、余程娘が欲しかったのだな…と思うくらいだが、事実はそうではなかった。