第19章 さよならのソナタ【A×O】
夏の終わりのある日。
学校で貧血を起こして智が倒れたと連絡があった。
検査のため、と入院した智が、家に戻ってくることはなかった。
『悪性リンパ腫』
検査で見つかった時はすでに手遅れで、智に残されたのは緩和治療のみだった。
日に日に弱っていく彼を、
俺はどうすることも出来ずに見守るしかなかった。
そして。
街が冬支度を始める頃。
智は、逝った。
静かに……眠るような最後だった。
『これで痛みから解放されたのね』
母さんはそう言って泣いた。
親父は、背中を丸めて肩を震わせていた。
でも俺は泣けなかった。
智が死んだことが、どうしても信じられなかった。
冷たい頬に触れても、
灰の中から小さな骨を拾っても、
どうしても彼がこの世からいなくなったことを、俺は受け入れられなかったんだ。
智が逝ってしまい、また夏が来て、俺は、祖父の法事で、久しぶりに田舎に来た。
子どもだった俺たちが、夢中で駆け回った野山は、昔と何も変わってなかった。