第18章 お気に召すまま【S×A】
「お帰りなさいませ」
恭しく車のドアを開けて頭を下げる。
「ただ~いま♪櫻井」
ルームミラーで後部座席の雅紀様を確認してから静かに車を発進させた。
……視線を感じる。
じっと俺を見つめる…
それまで大學のことを話していた雅紀様が、急に声のトーンを変え、
「翔…今日は、霧笛楼のチョコレートケーキが食べたい気分だな~」
ミラー越しに絡む視線はほんの少し微笑み、声は甘えた響きに変わっている。
「その呼び方は……ケーキなら、買っておきました。」
「流石~♪翔は俺のことなんでも分かってるんだよね~」
「痛み入ります」
「…ねえ、翔。二人の時はさ、そんな言葉使わないでよ!他人行儀じゃん!!」
「…ですが…」
「ダ~メ!これは命令だよ。翔」
「…はい…雅紀様…」
まだ満足いかないといった顔で、雅紀様はシートに深く身を沈めた。
屋敷に帰ると、いつもお風呂に入る雅紀様。
バスタブに身体を預けて目を閉じる。
「翔…気持ちいよ~。何だか眠くなっちゃう…」
いつものように頭を洗っていると、言ってる側からウトウトし始める…
本当に。
大人になっても、何時までも子どものようなお方…
純真で、無垢で…無邪気で…
頭を流しても目を開けない主人の顔をじっと見ていた。
綺麗だ…
何て整った顔をしているんだろう。
小さい頃から、変わらない…
品があって、男性なのに美人という感じで。