第10章 サクラ咲け【M×O】
智に会いたい。
今すぐにでも…
早く褒めてもらいたい。
よくやったな…って頭を撫でて欲しい…
きつく…
抱き締めて欲しい…
強く…
抱き締めたい…
俺は約束の場所に急いだ。
あの桜並木の土手に…
…智、待ってて。
今行くから…
もう直ぐ会えるから…
夕方になっても、智は来なかった。
駅で通り魔が暴れ、
何人も死者が出たというニュースで
世間が大騒ぎになっていることを、
この時、俺はまだ、知らなかったんだ。
智が、
その場にいたってことも……
あれから、何度目かの桜の季節を迎えた。
俺はこの春から、
小児科医として勤務することになった。
智……見ててくれた?
俺、努力したんだよ!
ちゃんと医者になったでしょ?
桜が雪のように舞い落ちる土手で、
俺は彼の声を聴いた気がした。
『……潤…よくがんばったね…』
【END】