第2章 むかしのはなし
「でもね、そのひとに、ほんっとに頑張ってアピールした」
「あぴーる?」
「すきなんです〜すきになってくださいー!ってお願いするのよ」
「へえ〜たいへんそうだね」
兄弟は他人事のようだ。
「それでね、そのお願いが叶ってね。
お母さん、王子さまと付き合えたのよ」
「えっ!!それじゃあお母さん、お姫さまじゃん!」
「あはは、ほんと、そうね」
その当時は、ほんとにお姫さまにでもなれたのかというくらい、幸せで幸せで、しかたなかった。
「それで、お母さんのお腹にはあなたたち二人ができた」
「ぼくたち王子さまの子どもなの?!すごい!」
「すごいね!」
兄弟は顔を見合わせて、目を輝かせている。
黒曜石の輝き。
「すごいのよ。でもね、お母さん、やっぱり貧乏だったから。王子さまと結婚させてもらえなかった」
「…………」
悲しそうな二人を、ありさは抱きしめる。
「お母さんは大丈夫。ずっと王子さまがだいすきだったし、今も大好き。だから、ひみつに連絡とってるのよ」
折々に送る子供たちの写真。
二人とも完全に父親似で、写真を見せたら涙声の電話がかかってきた。
けれど、彼には許嫁がいる。彼らの父親には、決してなれなかった。
「お父さんはね、かげながらあなたたちを助けてくれてるわ。ずっと、ずっとね」