第2章 むかしのはなし
「ねぇ、お母さん。なんでうちにはお父さんがいないの?」
「ねぇお母さん。なんで?」
幼い彼らに真実を伝えても、きっと正確にはわからないかもしれない。
けれど、ありさはありのままを、まっすぐ二人に伝えようと思った。
何も隠すことではなかったし、恥ずかしいことでもなかったから。
「お母さんね、とっても大好きなひとがいたのよ」
息子たちは、母の語る絵本ではない話に興味津々だった。
「でもね、そのひとは、すっごくお金持ちでね、普通の、むしろちょっと貧乏なお母さんから見たら、王子さまみたいなひとだった」
「お母さん、王子さまのことすきになっちゃったの?」
「ふもうってやつだね!」
お兄ちゃんのリクは覚えたばかりの言葉をつかえて得意気。
「そうそう。不毛だったのよ。でもね…」