第9章 裏/奥様は…
「いらっしゃいませ、どうぞ空いてるお席へお座りください」
ここは小料理屋「皆月」。お昼から夜中まで営業している。私はここの現店主である。
「女将さん、生もらえますか?」
「はい。かしこまりました」
皆月は調理場兼カウンターとお座敷がある。あまり広くないけど、基本1人でやっているからこれくらいのスペースがちょうどいい。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。ついでにから揚げいいかな」
「かしこまりました」
お客さんも今日は少ないし、問題ないだろうと思っていた矢先のこと。
「女将さん、こちでお酌してよー」
「申し訳ございません。ただいま調理中ですので…」
「あ? 客に向かってそれはないだろ?」
酔っぱらって勝手に言いたいことを言うお客さんはいるものだ。でも、実際に他のお客さんの注文の料理を作ってる最中でもある。気配でこちらにそのお客さんがカウンターに来そうだとわかり、どうあしらうか考えてた時…
「すんません、ここへの立ち入りはご遠慮いただいてます」
「はぁ? 誰だ、お前?」
「お、旦那さんじゃん! 今日は早かったんすね!」
「いらっしゃいませ。今日は仕事が早く片付いたんで…」
「ぶ、部長、今日はこの辺で帰りましょう?」
「あ? なんだ急に、俺は…!」
「すいません! ごちそうさまでした!!」
「あ、あの、お勘定していってください!」
手が離せなくて、状況を聞くだけでしか判断できなかった。
「お客さん、8560円だ。釣りだすから待ってください」
状況が分かったころにはそのお客さんはいなくて、出来上がった料理を盛りつけた時にはカウンターで苦笑いをしてる私の旦那さんもとい幼馴染であった鬼龍紅郎くんがいた。
「どこに運べばいい?」
「2番のお座敷にお願いします」
「あいよ。ただいま、あや」
「おかえりなさい、紅郎くん」
「2人ともー、俺ら客がいるの忘れないでくださいよー?」