第2章 伝えたい
「はぁ…」
蓮巳くんに言われて、鬼龍くんのところに言ったのはいいものの、結局鬼龍くんが何で落ち込んでたのか分からないままだった。
それに抱き締められるのが初めてで、練習室を出た今も身体が熱い。思わず、壁にもたれてしまうくらいには…
「その様子だと、もう大丈夫そうだな」
「どこがですか?」
「あいつは不器用だからな。貴様が行かんとどうにもならん」
蓮巳くんが戻ってきてため息をつかれてしまった。
たしかに鬼龍くんは手先は器用だけど、それ以外は不器用なところがある。私も人のことは言えないけど、鬼龍くんが辛いのを見ると私も辛くなる。特に去年は辛い思いを抱える鬼龍くんに何も出来ない自分が悔しかった。
「後輩を可愛がるのもいいが、恋仲も可愛がってやれ」
「……それを実行されているんですか?」
「こちらは貴様らと違って嫁が勝手に構いに来るからな。問題ない」
「惚気、ご馳走様でした…」
勝ち誇った笑みを浮かべて言うと、蓮巳くんは練習室の中に戻っていった。
そんな風に出来たら、最初からこんなに悩んだりしていない。
「……」
最近はあんずちゃんにヘアメイクのことを色々教えていたから部活でもあまり鬼龍くんと話せなかった。そうでなくても、鬼龍くんに部活やお手伝い以外でどうやって会えばいいのかわからなくて、困っていた。もし、それで鬼龍くんが忙しい時に被ってしまったら、迷惑をかけてしまったらと思うと、会いたいって伝えられなかった。
「ダメだな、私…」