第1章 僕と結婚していただけませんか
「言ったでしょう?誰もいませんから、声我慢しなくてけっこうですよ」
楽しそうに耳元で囁くハイセに。
断固として首を横にふる。
「……………っ」
そのまま、耳の中へと差し入れられた舌が、生き物のように耳の中をはいまわり。
ピチャピチャと、ダイレクトに響く水音にさらに煽られる羞恥心。
「…………お、っと」
徐々に力の抜けていく体は、ドアに伸ばしていた両腕の力さえも奪っていき。
項垂れるように崩れ落ちたあたしを、ハイセは片腕だけで支えた。
そのままハイセによってベッドへと運ばれても、ボーッとする頭はそれを拒むことも罵倒することも出来ない。
だけど。
ハイセの白い手袋が外されて、細くて長いキレイな指先がシャツをたくしあげるのを認識した途端。
「だめ!」
一気に意識は浮上した。
「お嬢様」
ため息を吐き出しながらあたしを射抜く大きな瞳。
それが、次の瞬間、さらに大きく見開かれることとなる。
「え」
「見ないで、お願い」
「お嬢様?」
「初めては、好きな人と、って。自由に結婚が出来るとは思ってないけど、せめて体は好きな人にキレイなまま見てもらいたい………」
「…………」
「お願いハイセ、結婚、するから。だから……っ」
見ないで。
泣くつもり、なんて毛頭なくて。
ただほんとに嫌だったの。
好きでもない人に、肌を見せるのは。
せめて、体だけはあたしのものでいたいから。