第5章 仰せのままに
「蓮ちゃん」
「お帰りなさい、治さん…」
隠し部屋に入ってきた治さんは、非道い状態だった。
先ず、手が血塗れ。
包帯は外されているし、顔色も悪い。
「治さん」
血塗れの手を取ろうとしたら、
「汚れてしまうよ」
何て云うから。
そんな壊れそうな表情で私に気を遣わなくていいのに。
「構いません。お疲れ様です、治さん」
触れないと治さんが消えてしまう気がして、私は治さんを抱きしめた。
好きとかの感情とは別に、今はこうしなければと思った。
「蓮ちゃん…」
治さんは泣きそうな声で、ぎゅうっと抱きしめてきた。
そっと背中をさすると2人で床に座り込んで、治さんは何かを耐えるように身体を震わせていた。
「何が、あったんですか?もし、よければ…聞かせて下さい」
「安吾が…裏切り者だった」
「え?」
「三重の間諜で…本当は、政府の人間だった…」
なっ!
その時ピクリと一瞬動いただけで、狼狽えなかった私は凄いと思う。
「…あと…織田作が」
「織田作さんが?」
「死んだ」
「!!!」
「ミミックのトップとやりあって…僕は止められたのにっ、止められなかった…」
「私は…何も見てません。聞いてますが、見てません」
「ふっ…う、…」
静かな泣き声だった。服に血がついてしまうとか、肩口が涼しいだとか、そんな事は如何でもよかった。
この人が楽になるなら。
泣いている姿を見せてくださる事が、嬉しいと思ってしまうくらいには私は冷静だった。
いや、本当は混乱が一周回っただけなのかもしれなかったが。