第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
「來良っ!」
低くて太い、唸るような声が私の名前を叫び、その剣幕に押され背中が跳ねた。
「貴様、死ぬのが怖くないのか?早くせねば貴様も巻き込まれるぞ」
「っ、そんなの、怖いに決まってます!でも信長様は生きてるのに、信長様だって助かるかもしれないのに、一人だけ逃げることなんてできませんっ!」
「貴様が俺のために命を落とす必要はない」
「でもっ!」
(死にたくない、でも一人で逃げるなんてもっとできないっ!)
どうすれば良いのか分からず狼狽える私の両肩を、信長様は強く掴んで視線を合わせた。
「來良、俺はもう…とっくに生きてはいない」
「えっ?」
「空良を失ったあの時より、俺の時はもう止まったまま刻んではいない」
「な、何を言って…」
「今の俺は生きる屍同然。そしてこの敵襲は、俺があの日から間違った道を進んだ結果だ」
「……でも、そう思うのならやり直せるはずです。お願いです。私と一緒に逃げ……っ…んっ!」
言葉が途中で言えなくなった。
“煩い、黙れっ!”と、手で口を抑えられたのかと思ったけど…
「んっ!!」
目の前にあるのは信長様の手の平ではなくて、顔だ!
そんな事されるはずがないと完全に油断をしていた自分の唇には、既に柔らかで生暖かい信長様の唇の感触がして、自分の唇に何が起こっているのか理解ができず、慌てる私の体はぐるぐると天井が回っているかの様に力が削がれ抜けて行く。
「んっ、…っ……」
これは”キス”なのだと頭が理解した時に唇は離れ、逞しい腕が私の体を支える様に抱きしめた。
「……っ、信長様?」
さまざまな感情で心が揺れて、言葉が出てこない。
「生きる屍同然だった俺だが、この数日間は久しぶりに生きていると感じることが出来た」
「それならば一緒に、こんな…、このままサヨナラなんてできません」
「勘違いするな、貴様が愛する相手は俺ではない」
「っ、そんな事」
あまりにキッパリと言い切られて、涙がこぼれた。
今のキスだって、本当は私を落ち着かせる為の軽く触れるキスだって事も分かってる。だって、夢の中での信長様はいつだって蕩けそうに甘く深い口づけを空良にしていたから…