ロミオとジュリエットは何故不幸になったのか【エルヴィン】
第2章 ハンサムな彼
「やはり貴方を助けて良かったです。泥棒だろうと何だろうと、
貴方はきっと優しい人だから・・・」
彼はびっくりしたように私の顔を見てきたが、
私はそれを黙ったままの笑顔で返し、彼から一歩下がる。
「私は貴方が何処の誰か聞くつもりは無いし、
貴方に名乗る事もしません。そして、今日は何も
無かった事にします。今後、貴方と夜会で会っても
話しかけませんので、ご安心下さい」
ドレスの裾を摘んでお辞儀すると、彼は困惑げな顔で
「もう二度と君とは話せないという事か?」と問うた。
私はそれにニッコリと返す。
「そうですね。その方がお互いの為だと思います。
今日、貴方と出会えて私はもう一度『生きる』事にしました。
貴方には感謝してもしきれませんし、何かお礼もしたい所ですが、
私に関わると碌な事にならないと思いますので、
この場でその無礼をお詫び致します」
「元より私は君に助けてもらった身で、君に感謝し
詫びるのは此方の方だ。助けてくれて、ありがとう
・・・そして、君が『生きる』と言ってくれて、
嬉しかった」
お互い頭を下げ合って、私はその場からゆっくり歩き出した。
背中に彼の視線を感じたが、振り向くことはせず、
その場を後にする。
こういう夜会で晴れ晴れとした心持ちで会場を後にするのは
初めてだった。
心から彼に感謝し、私は彼が幸せな人生を送りますようにと
密かに願った。