第10章 原作編《入寮〜圧縮訓練》
紫沫SIDE
背後に誰かの気配を感じたと思えば口元を何かに塞がれていた。
「爆豪、離れろ」
「!?」
「あ?何でここにいやがんだよ、舐めプ野郎」
「さっさとこの手を離せ」
「ハッ、てめェが先にその手離せや」
突如として背後から聞こえてきた声でさっきの気配の正体が誰なのか。
今口を塞いでいるのが何なのかわかった。
「何のつもりだ?」
「るせェ」
そう言って爆豪君の手が離れていくと同時に気配の正体である焦凍君の手も離れて。
自由になり後ろへと視線を向けた。
「しょ、焦凍君!なんでここに?」
「…紫沫に話がある」
「話だァ?今は俺としてんだろが。邪魔すんじゃねェ」
「話をするのにあんな近付く必要があるのか?何の話をしてんたんだ?」
「てめェにゃ関係ねェわ」
「ま、前言ってたあの事件のことだよ」
なんだかあまりよろしくない雰囲気に一刻も早くこの場を立ち去るべきだと思った。
「ごめん、爆豪君。今日のところはもういいかな?一応全部話したし。もしまだ聞きたいことがあるならまた連絡して」
「は?」
「焦凍君、行こ?」
逃げるが勝ちだ。
焦凍君の手を取ってその場を後にして。
後ろで爆豪君の叫び声が聞こえているような気もするけど、それは聞こえないフリをした。
「…爆豪君置いてきちゃったけど、大丈夫だよね?」
「さァな」
「…ぅん」
何だか焦凍君の雰囲気が少し怖くてそれ以上話しかけることが出来なくなってしまう。
いつの間にか引いていた手は引かれる形になり、
無言のまま焦凍君の部屋に連れて来られて、
畳の上で向き合う形で腰を下ろした。
「…爆豪に、何もされてねぇか?」
「え?」
「すげぇ近かっただろ。距離」
「ぁ…首掴まれて動けなかった…」
「何で捕まる前に逃げなかった?」
「それは…爆豪君の目が紅くて…」
あの時思い浮かべたモノが今目の前にあって。
それに触れたくて左の紅へと手を伸ばす。
「焦凍君の紅に見えて…」
「…そうだとしても、俺以外の男の前でそんな顔すんじゃねぇ」
「それはどんな顔?」という問いかけは焦凍君に塞がれたことで口にすることは叶わず。
中途半端に開きかけていた隙間から舌が入ってきて。
少しだけ強引に絡みつかれて。
暫くの間その行為が止むことはなかった。
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